【技術と歴史】その2 車載用アンプ編

【技術と歴史】その2 車載用アンプ編

こんにちは。ノボル電機、猪奥です。
前回からは弊社の技術紹介及び社歴の中で拡声器にまつわる歴史をお送りしています。よろしければ、前回「メガホン編」もご高覧ください。
今回は、移動販売車の音楽放送やメッセージ放送、清掃車のオルゴール音等でご利用いただいている「車載用アンプ」について、お送りします。

 

アンプ開発の第一歩としての車載用アンプ開発

拡声音響装置をシステムとしてみると、アンプとスピーカーとマイクロホンから成り立っています。
当社は1945年の創業当時、拡声器(ホーン型スピーカー)の製造から出発しています。1950年代後半頃の当社はスピーカー主体の工場でした。アンプとセットで買っていただかないと自社ブランドを育てることも、シェアを伸ばすこともできないと考え、創業から15年が経過した1960年にアンプの製造販売を始めました。
この頃のアンプは真空管アンプだったと聞いていますが、あまりうまくいっていなかったようです。1962年になってやっと、車載用のトランジスタアンプの製造販売を軌道に乗せることができました。さらに翌年の1963年にはトランジスタ回路を使ったオルゴールアンプを追加し、これらの商品でトランジスタアンプの設計・製造・販売を行っていきました。
アンプ参入当初から、車載用の拡声アンプにフォーカスしていましたが、当時の当社の力では大がかりな設備用アンプやシステム開発にはまだまだ手が出ず、アンプとスピーカー1~2台で比較的簡易にセット販売できる車載拡声装置は売りやすい商材として、アンプ参入期を支えました。
当時まだ出始めだったトランジスタをいち早く製品に採用することで、車載用拡声装置の自社ブランドでの販売に成功したともいえます。また、マイク放送用と、オルゴール用とをシリーズ品にして設計を共通化することにより、部品調達を安定させ、工業製品としてのコストメリットを出すことにも成功しました。

 

家庭ごみ回収にオルゴール音を

当社の車載用の拡声アンプの技術を振り返る際に、トピックスとしてオルゴールアンプがあります。
最初のオルゴールアンプOR-1を開発したのが1965年頃。オルゴールアンプの開発により、清掃車(塵芥車・パッカー車とも言います)がオルゴールを鳴らしながら家庭ごみを回収する習慣を社会にもたらしたエポックメイキングな製品でもあります。
当初は機械仕掛けのドラム式のオルゴールユニットとモーターとマイクロフォンで構成されていました。この構造が、1968年頃にオルゴールユニットとマグネットピックアップで構成したOR-2へ、更に1980年にはRC発振回路による音階を順次発振させる電子式のOR-2015へ、1982年にはマイコンで発振させるマイコン式のOR-22へと技術的な進化を遂げます。
ドラム式のオルゴールユニットから電子式に変わったのには事情がありました。
当時オルゴールというものは宝石箱に仕込まれていて蓋を開けるとメローディーを奏でるという、高級で趣味的な使われ方をするもので、塵芥回収という静脈産業に使われることにオルゴールユニット製造元から異論が出て、当社への供給を止める働きかけがありました。
当社は、既に多くの自治体で採用していただいていたので、その供給責任を果たすために、当時としては思い切った発想で電子式オルゴールの開発に踏み切り、何とか継続することができました。
当社の車載用オルゴールアンプの歴史は、用途開発を行えた成功事例であるとともに、機械式から電子式、アナログ回路からデジタル回路へと内部構造の変化及び当社の技術の歴史を象徴する超ロングセラー商品となりました。

 

メッセージ放送の歴史

車載用拡声アンプにはメッセージを繰り返し放送するために、音源付きの車載用アンプが定番です。
カセットプレーヤ―付車載アンプがいつから世の中にあるのか、当社でも把握はできておりませんが、カセットテープは繰り返し放送に適するので、車載PAアンプとしてはカセット付きアンプが欠くことの出来ないものになりました。
当社の記録では1976年にカセット付アンプYA-2023を開発しています。広報車に重宝されたので市役所向けの販売展開を行っていました。その後、コンソールボックスに収まるDINサイズのYT-110を1981年に発売して、広報車用として競争力のあるヒット商品となりました。
そこに暗雲がさしたのが「カセットが廃止になる」という大事件でした。そこで、電子式に変えようということになったのですが、電子式と言っても、スマートメディア、メモリースティック、MD、SD、USBなど方式が多種類在り、どれがその後の主力になるか、当時は予測がつきませんでした。規模の小さい当社としては多機種を開発する余裕がなく、カセットの代わりになる電子媒体の選択は将来の技術予想という困難な選択を余儀なくされました。
当社は熟考の末、SDを選択し、2008年にSDカードプレーヤ付車載アンプとしてYD-311を発売し、その後他社も同方式を採用したことで、SDカードがカセット後継としての地位を固めていきました。小さな町工場が業界のスタンダードを先導した事例であり、先行者利益を享受する形で広報車用拡声器での市場地位を守ることが出来ました。

【本社展示ブースに並ぶ 車載用アンプの数々】

スマホ用無電源スピーカー「拡音器」のベースとなった拡声音響機器メーカーとして当社の技術・歴史の話題として、車載用アンプについてお届けしました。
次回は第3回目として設置型アンプの技術や歴史に関する話をさせて頂ければと考えております。

株式会社ノボル電機
製作所事業担当 猪奥元基