【技術と歴史】その3 設置型アンプ編

【技術と歴史】その3 設置型アンプ編

こんにちは。ノボル電機、猪奥です。
前回からは弊社の技術紹介及び今までの社歴の中で拡声器にまつわる歴史をお送りしています。よろしければ、前々回「メガホン編」、前回「車載用アンプ編」も併せてご高覧ください。
今回は、拡声音響装置の主戦場でもあり、館内放送や学校放送、防災放送などで使用される設置型アンプについて、お送りします。
と言っても、当社が不得手とする分野ですので話題は設置型アンプを起点に、電話呼出放送専用アンプや大手と競合する市場に踏みとどまるための差別化の話が話題の中心になります。

 

レッドオーシャンに苦戦

設置用アンプの開発は、創業18年目の1963年に遡ります。前回の「車載用アンプ編」で車載用トランジスタアンプを開発したのが、1960年でしたので、それから3年の時を経て、設置用アンプを開発し、設置型市場への参入をしました。
初期は真空管を使ったアンプを開発しましたが、段々トランジスタの性能が向上したことで、トランジスタを使った製品を開発し販売していきました。しかし、設置用アンプの販売は伸び悩みました。設置用アンプでは、工事で使用するアンプ以外の資材も扱っている大手企業からの購入が主流となっていました。アンプ単品開発しかできない町工場が大手と競合する市場で販売活動や供給ルートを確立するのは非常に困難で、販路を拡大できない状態が続きました。
他社の製品構成は、真空管の出力でもある出力15Wを基準として、15W、30W、60Wという品揃えになっていました。当社は設置型の参入自体が遅く、真空管がまだ主力であった当時に一足飛びでトランジスタを使い、差別化のため20W出力のアンプを開発。他社の15Wと同価格で20Wのアンプを購入できるというお得感を提供する作戦でしたがうまく普及させる事が出来ませんでした。
 
1976年頃に出力10WローインピーダンスアンプNAC-1011を発売し、低価格の製品を投入することでお得感作戦を強化し、一定の顧客層を確保しましたが、広がりに欠けたものでした。

 

差別化で活路を見出す

1970年代の終わりごろにビジネスホンが急速に普及し、設置用アンプを使用する放送設備ではなく、ビジネスホンから拡声装置を操作して構内放送をする電話呼び出し放送(電話ページング)が普及してきました。
この時代の変化を受けて、1980年代前半に、放送設備を扱う電気工事店(空調や照明などの電気設備を扱う工事店)から、ビジネスホンを扱う電話工事店(電話やTV、LANなどの通信設備を扱う工事店)へターゲットを変更しました。
放送設備の分野では、大手の壁に阻まれて苦戦を強いられましたが、普及し始めたビジネスホンへ目先を変えて、電話工事店向けの市場を切り開くことで状況を打開しようとしたのです。
当時、ビジネスホンの設置工事は電話工事店が行うが、拡声放送は電気工事店が行うという習慣があり、手間がかかっていたことに着目しました。その手間を減らすために電話呼出放送専用アンプFG-10(出力10ワット)を1983年初めごろに発売しました。この製品を使用すると電話工事店でも、ビジネスホンの工事と一緒に、従来できなかった拡声放送の工事ができるようになるという画期的な商品でした。ターゲットを変えて他社と差別化を図ることで当社の独自分野を確立することができました。


電話呼出放送専用アンプとして独自路線を進む

設置型アンプは、現在でも電気工事の分野の商品です。放送装置のレッドオーシャンで大手とバッティングして凌ぎを削るより、町工場らしく、差別化したブルーオーシャンを探し開拓しました。電話工事店様での取り扱いの拡大を受け、電話呼出放送専用アンプを10Wから120Wまで品ぞろえを増やし、さらにメロディータイマー等の周辺機器を開発することで、電話工事店様の需要に対応できる多様な商品ラインナップを整えていきました。
当初これらの製品は、電話工事店を対象とする電話機材卸店を主体に流通に乗せ、普及が進むと電気工事店を対象とする電気材料卸店でも扱っていただける様になりました。つまり電話ページングではない一般の設置用アンプを販売する流通経路との取引が可能になったのです。それでも電話呼出放送専用アンプの販売が主体であり、大手の壁は厚く館内放送などで使われる設置用アンプの販売は苦戦が続いています。
規模の小さい当社が、大手と同じ土俵で、かつ後追いで勝ち残るのは難しいことです。製品に当社ならでは特徴があること、その特徴を理解し活用してくださる利用顧客と流通経路を確保することをバランス良く切り開いて行かねばなりません。電話呼出専用アンプでの差別化が成功しましたが、もう一段の販路拡大ができていない点が現在に至るまで当社の課題になっています。

【本社展示ブースに並ぶ 設置型アンプの数々】

スマホ用無電源スピーカー「拡音器」のベースとなった拡声音響機器メーカーとして当社の技術・歴史の話題として、車載用アンプについてお届けしました。
次回は第4回目として汽笛の技術や歴史に関する話をさせて頂ければと考えております。

株式会社ノボル電機
製作所事業担当 猪奥元基